札幌高等裁判所 昭和52年(く)21号 決定 1977年10月13日
少年 N・N(昭三七・一一・七生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
論旨は要するに、少年を初等少年院に送致することとした原決定の処分が著しく不当である、というものである。
そこで、少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して、少年の要保護性について検討すると、少年は中学三年生であるが、少年が六歳のときに両親が離婚して父子家庭となつたために母親の愛情を受けられず、しかも父親がタクシー運転手という生活の不規則な職業にあるために少年を放任しがちであつたことなどが原因して、小学六年生のときから窃盗の非行を繰り返し、最近では、原決定が記載するように、家出・シンナー遊び・喫煙・怠学・他校生徒との集団乱闘・同級生に対する金銭強要・不良仲間との交遊などの行為があり、このまま放置すれば将来罪を犯すおそれがあるのである。そして、父親は少年に対する愛情を欠いているわけではないが、指導力に乏しく、また、学校の教師による指導・監督ももはや効果を期待することができない状態になつている。
これらの事情を考えると、もはや在宅の保護処分をもつて少年の非行を防止することは困難であり、少年を矯正善導するには、少年院に収容して規律ある生活環境の中で規則的な生活習慣を身につけさせ、自律心を養うことが最も望ましい。幸い、少年はもともとは心のやさしい生徒であり、知能も普通以上のようであるから、非行性がさほど進行していないと考えられる現時点において、専門家による矯正教育をほどこすならば、長期間を要せずに効果をあげることが期待できると考えられる。
したがつて、原裁判所が少年を初等少年院に送致することとしたうえ、あわせて少年院長に対し一般短期教育課程にもとづき少年を処遇するよう勧告したのは相当であつて、原決定に処分の著しい不当があるとはいえない。それゆえ、論旨は理由がない。
以上の次第で、本件抗告は理由がないので、少年法三三条一項後段、少年審判規則五〇条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定をする。
(裁判長裁判官 粕谷俊治 裁判官 豊永格 近藤崇晴)
参考一 抗告申立書
抗告の趣旨
父は、血圧も高く、体も弱くたよる人は、だれもいないから僕が父のせわをしなければならないと思う。
それに父は引き取つてくれると言つていたのだし、僕も鑑別所で自分の心の弱い所や悪い心を、反省し、直して来たのです。
それに少年院から来たと言う事で社会から相手にされなくなつたら、せつかく直した今の正しい心が大なしになると思う。
今まで犯した罪の三分の一は、友人などにきせられた罪であるから、僕は、今までのことがらを反省して、やはり悪い友達は悪い事しかしないのだなあと思うことがあつた。
だからここを出ても前までの友人とは、つき合わずにして行くつもりだ。
それに中学生なのだから、きちんとした学校へ行きたい。
僕は、学校も帰れるのなら、てんこうし、新らしい気持ちで行きたいと思つている。
いくら、卒業しよう書がふつうの中学校の物だからと言つても少年院から卒業したと言う気もちは、心の中に残つていると思う。
ぐ犯と言うが僕は今後悪い事はしない。僕も、もうすぐ一五歳自分の言つた事に対して責任を待ちます。
参考三 勧告書
昭和五二年九月二七日
札幌家庭裁判所
裁判官 ○○○○
月形少年院長殿
記
少年 N・N 昭和三七年一一月七日生
本籍 札幌市○○○○×丁目×番地
住居 同市西区○○○×○×丁目××番地○○荘左C
職業 中学生
上記少年に対する当庁昭和五二年(少)第二二四九号虞犯保護事件につき、当裁判所は、貴院で実施している一般短期教育課程を受けさせるのを相当と認め、本日、少年を初等少年院に送致する旨の決定をしました。
よつて、貴院における同教育課程にもとづき少年を処遇されるよう、少年審判規則第三八条にのつとり勧告します。